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SC5インタビュー意訳
【SC4終了からSCV制作開始までの流れ】-SCとNBGIを取り巻く状況
(小田嶋)SCVの制作について、少し時間軸に沿って語っていきたいと思います。
まず、SC4が完成して、チームはいったん解散となりました。
こうなった背景は様々な要因がありますが、上層部の考えの一つに、SC4を作った優秀な人材がそのまま一つのプロジェクトに付きっきりでいいか、というものがありました。
優秀なプログラマやアーティストを新しいフランチャイズ立ち上げのために使いたいという思惑もあったらしく、実際原田さんは多くのメンバーを他のプロジェクトに引き抜いていきました(笑)
欧米市場に目を向けると、God of WarのようなアクションゲームやFPSがもっとも大きな市場となっており、弊社もそのジャンルに強力なフランチャイズを欲していました。
また、弊社は格闘ゲームで知られている部分がありますが、鉄拳とキャリバーの二つは必要なく、一つに絞り、新しいフランチャイズのために人的リソースを解放できないかという考えもあったのだと思われます。
しかしながら解散後も、SCの続編を作るべきか否か社内で大きな議論がありました。この議論はなかなか進まず、プロデューサーの夛湖自身も、制作に取りかかれるまでにはもう少し時間がかかると考えていたようです。
しかし、FacebookやTwitterなどでの署名の存在がその議論を進める大きな役割を果たし、上層部から制作に踏み切る判断が下されました。
・SCV立ち上げ直後
制作の指示が下って、自分がディレクターになってからしたことは、まず「やりたいことリスト」を作ることでした。
初めてプロジェクトに参加したSC3からこれまで、自分にとって満足のいくSCを作ることはできなかったという想いが強くあったので、自分が理想とする今回のSCの青写真を作ったのです。
製作中にもこのリストは膨らんでいくわけですが、当然、予算や期間を考えれば、全部を実現することはできません。
ではどうするか。
今回はSCファンが何を欲しているのかを聞き、彼らのフィードバックをしっかりくみ取って自分の青写真を修正し、また不要なものを削ぐという方法でやることにしました。
【クリティカルフィニッシュについて】-前作の反省を踏まえて慎重に調整
(小田嶋)ちょっと話が逸れますが、たとえばSC4で導入された「クリティカルフィニッシュ」については、それの善し悪しはさておき、 発動機会が少ないというフィードバックが多かった。
そこで、その不満をいかに解消するかを考えています。
これは、単純に考えればクリティカルフィニッシュの発動機会が増えるということになりますが、それだけではバランス調整が難しい。
なにせ相手を一撃でしとめるのですから。あまりにも簡単だと、駆け引きが生まれづらくなるし、攻撃力の低い技は見向きもされなくなる。
それで倒されたプレイヤーがフェアではないと感じるようになってしまうし、ゲームのテンポも悪くしてしまう。
そうした部分についても、慎重に調整を進めています。
【ゲームデザインにあたっての三本柱】-ゲーム性、快適性、ストーリー性
(小田嶋)話を戻して、SCVの青写真をデザインをするにあたって、三つの要素を特にクローズアップしました。
それは、取っつきやすいゲーム性、オンラインにおける快適性、そして想像力をかきたてられるストーリー性です。
・SCVが目指すゲーム性
このうち、ゲーム性から話すと、まずは8WAY-RUNありきで考えています。
ソウルキャリバーをソウルキャリバーたらしめている要素を一つだけ挙げるとするなら、それは8WAY-RUNでしょう。三次元空間をこれだけ自由に移動できるゲームは他にないと思います。
そこにリングアウトの要素が加わることによって、敵と自分の位置を考え、どの方向に動くべきか、相手をどの方向に動かしたいかを考えながら戦う戦略性が生まれます。
こうした、SC独自の3D空間を使う8WAY-RUNは、今回、我々が注力していることの一つです。
SC3とSC4では「重い」といわれていたので、操作性と軽さを向上させ、直感的な知識偏重にならないバトルの展開を与えようと思っています。
前述のクリティカルフィニッシュの改良も、取っつきやすいゲーム性のために考えられています。勝負所を分かりやすくする狙いに貢献してくれるでしょう。
・SCVが目指すオンライン
二つ目はオンラインの快適性についてです。
まず当然のことですが、SCVはオンラインモードを搭載します。我々はSC4のオンラインモードに対する批判を謙虚に受け止めています。
今作では、ゲームのコミュニティー形成・発達を促すような仕組みを考えています。また、オンラインで快適にプレイできるよう、出来る限り遅延を軽減し、オフラインに近い感覚でプレイできるように開発を進めています。
・SCVが目指すストーリー性
最後にストーリー性ですが、今作はSC4から17年後の世界が舞台となります。今までのストーリーは煮詰まっていましたし、構図も単純で、ソウルエッジ、またはナイトメアを倒すというものでした。
今回は、単純な勧善懲悪的なものではなく、その一歩先にストーリーを持っていき、プレイヤーに様々な想像、議論が起こるようなものを目指しています。
また、これまではそれぞれの視点でストーリーが語られ、並列な世界が存在するものでしたが、今回は大きな一つのストーリーが存在しています。
(訳注:EGMの原文では、この内容は逆転しています。これまでは大きな一つのストーリーが存在し、今回は並列な世界が存在する、という風に書かれていますが、これは誤りです。和訳原稿を起こすに当たって、我々の意図する正しい内容に修正しています)
ソウルキャリバーは、他の格闘ゲームに対して、飛び抜けて設定情報が豊富で、奥深い世界を構築していると自負しています。
これは、音楽やステージ、持っている武器など、そのすべてにおいて詳細な背景が存在します。特に、キャラクターに関してはゲーム内では直接語られないような、膨大な設定情報を持っています。おそらく、他のどの格闘ゲームよりも複雑な設定を持っているでしょう。
そうした膨大で奥深い世界を、より多くの人に楽しんでもらいたいのです。
【キャラクタークリエイションについて】-プレイヤーの要望を取り入れつつ強化
(小田嶋)こうした豊かなストーリー性を持ったSCのキャラクターですが、SCでキャラクターといえばもう一つ特徴があります。それは、もちろん多様なカスタマイズ機能を実装し、プレイヤー自身がキャラクターを作成して楽しめるというキャラクタークリエイションです。
そして、今作においても、この部分はパワーアップしています。
FacebookやTwitterでファンとのコミュニケーションを取り、そこで挙げられた機能のうちのいくつかを採用しました。一例を挙げますと、プレイヤーからの要望が多かった機能の一つにキャラクターの体格を変更する機能がありましたが、これは今作で実装を予定しています。
【SCVのアートスタイルについて】-キーワードは「光と影」
(吉江)ストーリー性を支えるアートスタイルについてですが、まず、世界中にいるSCファンに、これまでのSCシリーズの世界観やアートスタイルが愛されているという事実があります。ですから当然、今作もその基本部分は守られているべきと考えています。
それを踏まえた上で、今回は「光と影」の表現に主眼をおいてみました。先ほどお見せしたステージ両方にも、またストーリーという点で作品全体にも言えるのですが、よりダークになっていると言えます。
「光と影」は、ソウルキャリバーとソウルエッジの戦いにも言及することが出来ますので、これがSCVのアートディレクションにおいて中心的な役割を担っています。
ゲームで使われるシェーダーは一新され、光源の種類、光源との距離・位置などからキャラとステージのコントラストをより鮮明に表現しています。
今作では今までのSCに比べて夜のステージが増え、月明かりで照らされるステージなどが登場するでしょう。
これらは、もちろん日本人のスタッフによって作られているものなので、アニメや漫画の影響を受けています。また、私自身はティム・バートンのファンなのですが、彼の作る雰囲気が大好きで「拷問部屋」のステージにはそのテイストが入っています。
【SCを制作することのプレッシャー】-会社からよりファンからのプレッシャー
(小田嶋)こうした多くの要素を含んだビッグタイトルではあるのですが、会社の上層部を満足させないといけないという意味でのプレッシャーは感じません。
ただ、ファンがこのゲームを手にとってSCであると感じるか、アートの方向性がSCであると感じるかということのほうが気になります。ファンがこのゲームを「過去作と同じ感じだけどより良い」と言ってくれれば、成功だといえるでしょう。
(夛湖)私個人としては、成功させるための大きな責任を背負っているという意味では多少プレッシャーを感じています。ただ、仕事だからではなく個人的にこの作品が完成するまでを見届けたい、という思いが強いですね。
【モチベーション維持について】-いちプレイヤー目線で楽しむこと
(小田嶋)自分は今でもソウルキャリバーをプレイして、楽しんでいます。自分が面白いと思う要素を入れたゲームですから。そうでないと、人にプレイさせることなんてできません。
だから、先ほどファンのプレッシャーを感じると言いましたが、自分自身も1ファンであろうとしていて、それが自分にとってはモチベーションを保つ秘訣になっているんだと思います。
プレイするということはとても大切なことです。
紙の上で考えるのではなく、実際にプレイしてみて、ゲームに打ち込んでから気付く面白さ、興奮があります。そこで初めてなぜそういう風に感じたのだろう、ということを考えます。
そうやって新たに面白いと思う要素が見付かったりするので、ゲームをプレイし続けるのです。
これから歳を取っても格闘ゲームは続けたいです。ゲームをやっていて楽しいと感じられなくなったら、制作サイドでの仕事をやめるときだと思います。
そのジャンルのゲームを徹底的にやらないと新しい面白さの追加はできないと思います。もし歳を取りすぎて鉄拳で最速風神拳が出せなくなったら、自分が格闘ゲームを作るのをやめる時なのでしょう。
【良くプレイする格闘ゲーム】-「ストⅢ3rd」は職場に筐体を置くほどのお気に入り
(小田嶋)弊社製品以外で言うと、個人的によくプレイする格闘ゲームは「ストリートファイターⅢ3rdstrike」で、職場にも筐体があります。
ストリートファイターⅣもよくできていたと思います。一部の技で簡単に大ダメージを与えられるし、格闘ゲームをしっかりやる人にとっては面白いバランス調整だったと思います。
ただ、スーパーストリートファイター4でバランス調整が変わり、全体としてのバランス調整はよくなったんだけど、棘がなくなったというか。前作のほうが面白かったと思うんですよね。まあ、小野さんを怒らせたくはないんですけど(笑)。
【格闘ゲームの未来について】
(小田嶋)格闘ゲームの未来はどうなるのかという質問を良く受けるけど、まずそもそも、このジャンルがなくなることはないと考えています。
ただ、格闘ゲームを作ることができる会社や開発者が減ってきているとは思います。しかしその点でも、弊社には二大フランチャイズがあるので大丈夫でしょう。
【鉄拳チームとキャリバーチームの関係性について】
(小田嶋)意外に思われるかもしれませんが、隣同士でジャンルも同一の鉄拳チームとソウルキャリバーチームは、これまで、交流がそれほどありませんでした。最近ではプロジェクト間でのコミュニケーションを積極的に増やそうとしています。
また、人員の往来についても、ビジュアルやアニメーションの人は両方を経験している人が少なくないのですが、ゲームデザインに関わる人だと極端に少なくなります。
ゲームデザインについては、両者のゲーム性の違いから、すぐに来て手伝うということは難しいですね。
【ゲームシステムのコアの部分を強く押す、最近の格闘ゲーム業界の流れについて】
(夛湖)最近の格闘ゲームはこれまで以上に基礎の部分に注力していると思いますが、だからといって他の要素を無視することは許されず、当然ながら両方が重要であると考えています。
格闘ゲームが複雑になりすぎたことで、離れていったプレイヤーは多いと思います。そこで、このゲームではより親しみやすくしようと考えています。
このジャンルにはじめて入ってくる人でもゲームが理解できるということが重要なのです。
その上で、一旦理解した人がより深くゲームにのめりこめるためのゲーム要素というのも重要です。この初心者からハードコアゲーマーへどうもっていくかという道筋を、我々は改めて考え直す必要があります。
【ほとんどの格闘ゲームは日本産であることの要因について】
(小田嶋)こうした状況にある一番の理由は、日本人の方が欧米人に比べてディティールにこだわるからだと思っています。どんな小さなことでも、完璧になるまで作りこみたいと思う気持ちが格闘ゲームによって大切なんだと思います。
また、日本には「わびさび」という考え方があって、何事もやり過ぎは良くないという考え方があります。何でも過激に、派手にすればいいというわけではないと。
あえて平凡に作る必要もあり、それはキャラ作りでも一緒です。ある技を、強くすることもあれば、敢えて弱くすることもある。それは日本人の精神を以てこそ出来るバランスなんです。
【武器格闘ゲームが近年発売されない要因について】
(小田嶋)これには、大きな原因が二つ考えられます。
一つは、武器格闘のキャラを作るとなると、素手格闘のゲームのようなモーションの使い回しが難しくなります。武器ごとに見た目、アニメーションに違いがあるので、それぞれが独自のものとなってしまいます。
二つ目として、武器ごとに攻撃のリーチが変わってしまうため、間合いを絡めたバランス調整が非常に難しいのです。素手格闘であれば似たようなリーチになるのですが、武器格闘の場合そうはいきません。
【3月の東日本大震災が与えた、様々な影響について】
(夛湖)開発やゲーム製作や自分の物事の考え方という点では、特に変化はありません。津波の被害に合い、家族を失ったり大変な状況にいる人は多いと 思います。
だからといって、ゲームの発売を延期したりすることは違うと思うし、我々の責任は変わらず、可能な限り面白いゲームを作ることだと考えています。
(小田嶋)東京はそれほどダメージを受けませんでしたが、雰囲気は変わりました。地震の直後は仕事があまりできませんでした。今でもいつ停電が起こるかわかりません。
全体として電気の供給が足りておらず、にもかかわらずゲーム開発では多くの電気を消費しますから。
そして、次の地震がまたいつ来るかわからないという部分は少なからず影響していると思います。人によっては、可能な限りすぐ家に帰りたいと考える人もいるだろうし、それを見た人が「自分も帰ろうかな」となったりします。
今は携帯電話が、地震が起きたときにすぐ知らせてくれます。アラームがなって、「地震が発生しました。東京には5秒後に到達するでしょう」などと教えてくれます。地震が来るとこのアラームがそこら中で鳴るようになりましたよ。
以上引用。